「紙の帳票を電子化したはずなのに、今も紙とシステムの両方に記録している」
「導入直後は使っていたのに、いつの間にかExcel管理に戻ってしまった」
DXを推進する企業では、このような問題が発生することがあります。
経営者や管理職から見ると、「便利になるはずのシステムなのに、なぜ使ってくれないのだろう?」と疑問に感じるかもしれません。
しかし、現場でシステムが使われない原因を、従業員のITリテラシーや意識の問題だけで片づけるのは適切ではありません。
実際の業務に合っていない、作業負担が増えている、運用体制が整っていない。
こうした問題が隠れていることもあります。
今回は、2026年の企業調査を確認しながら、製造業の現場を例に、DXが定着しない原因と対策を解説します。
2026年の調査でも、組織間の連携不足が大きな問題に
2026年4月16日、JIPDEC(日本情報経済社会推進協会)は「企業IT利活用動向調査2026」に基づく分析を公表しました。
調査は2026年1月に実施され、従業員50人以上の国内企業に勤務する担当者など、1,107件の有効回答を得ています。
その中で、DXを実践する際に生じている問題を尋ねた結果、「組織間の連携やコミュニケーションが不足している」が42.1%と最も高い割合でした。
前年の41.7%から、さらに0.4ポイント増加しています。
また、「データがサイロ化し、DXに向けた活用が十分にできていない」は、前年の22.6%から25.5%へ上昇しました。

ここでいう「データのサイロ化」とは、情報が部署やシステムごとに分かれて管理され、社内で十分に共有・活用できていない状態です。
例えば、製造部門では生産数量をExcelで管理し、品質管理部門では検査結果を別のシステムに保存している場合です。
それぞれの情報は存在していても、両方を組み合わせて分析するのが難しいことがあります。
この調査は、製造業の中小企業だけを対象としたものではありません。また、「42.1%の企業で導入システムが使われていない」という意味でもありません。
ただし、DXを進める際には技術面だけでなく、部門間の連携や既存業務との調整が重要であることを示す結果だと考えられます。
なぜシステムを導入しても現場で使われないのか?
原因① システムによって、かえって仕事が増えている
例えば、食品工場で紙の製造日報を電子化するケースを考えてみましょう。
導入前は、現場担当者が紙に生産数や作業時間を記入していました。
電子化すれば、紙の回収や集計の負担が減るはずです。
ところが、導入後も次のような状態が残っていたらどうでしょうか。
- 現場ではこれまでどおり紙に記入する
- 事務所へ戻ってからシステムにも入力する
- 管理者へ提出するため、結局Excelにも転記する
- 過去の記録は紙のファイルから探している
これでは、デジタル化によって仕事が減るどころか、入力する場所が増えてしまいます。
現場担当者が従来の方法に戻りたくなるのも不思議ではありません。
もちろん、法令や取引先の要求、品質保証上の理由などによって、紙の記録を残す必要がある場合もあります。
重要なのは、必要な記録を維持しながら、不要な重複作業を減らすことです。
DX担当 ちゃま男先輩!システムを導入したのに、現場の人が「紙の方が楽だ」と言うんです。デジタルに慣れてもらうしかないんでしょうか?
ちゃま男の先輩まず確認したいのは、システムを使うことで仕事が本当に楽になっているかどうかだね。紙に記入した後、さらにシステムにも入力しているなら、現場の負担は増えてしまうよ。
DX担当 ちゃま男なるほど!使わない人を責める前に、仕事の流れを見直す必要があるんですね!
原因② 現場の業務を理解せずにシステムを設計している
システム導入では、管理者の要望が優先されることがあります。
例えば、工場長が「生産進捗をリアルタイムに確認したい」と考え、新しい管理システムを導入したとします。
管理画面には、生産数量、作業時間、進捗率などが表示されるようになりました。
しかし、実際に入力する作業者には、次のような問題が発生していました。
- 手袋をしたままでは操作しづらい
- 入力項目が多すぎる
- 作業場所から端末が遠い
- 例外的な作業が発生すると登録できない
- 通信環境が不安定な場所で入力できない
管理者にとって便利なシステムでも、現場の業務に合っていなければ定着しません。
特に製造業では、作業環境や工程ごとに異なる運用ルールを考慮する必要があります。
システム設計の段階から現場担当者に参加してもらい、実際の操作を確認することが重要です。
原因③ 導入後の運用・改善体制がない
システムは、導入した瞬間に完成するものではありません。
実際に使い始めると、導入前には想定していなかった問題が見つかることがあります。
例えば、製造方法の変更によって入力項目の追加が必要になったり、取引先から帳票の変更を求められたりする場合です。
こうした変化に対応できなければ、システムを使い続けることが難しくなる可能性があります。
特に注意したいのは、次のような状態です。
- システムの問い合わせ先が決まっていない
- 設定を変更できる担当者がいない
- 改善要望を受け付ける仕組みがない
- 新入社員向けの教育が用意されていない
- 導入効果を確認していない
システムを導入するだけでなく、導入後の管理・教育・改善まで計画する必要があります。
製造業では「入力する人」と「情報を見る人」の違いに注意
製造業のDXでは、同じデータでも利用者によって目的が異なります。
例えば、設備点検の記録です。
| 担当者 | 必要なこと |
|---|---|
| 現場作業者 | 点検結果を簡単に記録したい |
| 現場責任者 | 点検漏れや異常を確認したい |
| 保全部門 | 故障・修理履歴を確認したい |
| 経営者 | 設備停止や保全コストの傾向を把握したい |
このとき、管理者が見たい情報をすべて現場作業者に入力させると、入力負担が増える可能性があります。
設備名や点検担当者など、状況に応じて選択入力や自動入力にできる情報がないか確認してみましょう。
また、現場で入力した情報を別の管理システムへ連携できれば、重複入力を減らせる場合もあります。
ただし、どこまで自動化できるかは、利用している製品やシステム構成によって異なります。
重要なのは、情報を活用する側の利便性だけでなく、入力する側の負担も考えて設計することです。
システムが定着しているかは、何で判断すればよい?
システムが使われているかどうかを判断するには、ログイン数や利用者数だけでは不十分です。
例えば、次のような指標を確認できます。
| 指標 | 確認する内容 |
|---|---|
| 入力完了率 | 必要な記録が何%登録されているか |
| 入力所要時間 | 1件の入力に何分かかっているか |
| 二重入力件数 | 同じ情報を何回入力しているか |
| 入力ミス・差し戻し件数 | 記録の不備がどれくらいあるか |
| 問い合わせ件数 | どのような問題が発生しているか |
特に重要なのは、導入前と導入後で比較することです。
例えば、入力完了率が高くても、作業時間が大幅に増えていれば改善の余地があります。
反対に、問い合わせ件数が一時的に増えても、導入直後の教育段階であれば必ずしも悪い状況とは限りません。
指標の数字だけではなく、現場で実際に何が起きているかを確認しましょう。
中小企業は何をすべきか?現場にシステムを定着させる5つの対策
STEP1:現場の作業を実際に確認する【最優先】
まずは、現場でどのようにシステムを使っているか確認します。
ヒアリングだけでなく、可能であれば実際の作業を観察します。
入力するタイミング、所要時間、使いづらい操作、紙やExcelとの二重入力がないかを調べましょう。
STEP2:入力項目と操作方法を見直す
現在の入力項目が本当に必要なのか整理します。
例えば、手入力を選択式に変更したり、バーコードやQRコードを活用したりする方法があります。
ただし、品質管理やトレーサビリティに必要な記録を安易に削減してはいけません。
STEP3:紙・Excelとの二重管理を減らす
同じ情報を複数回入力していないか確認します。
現場で入力したデータをそのまま管理者が確認・集計できれば、転記作業を減らせる可能性があります。
一方、電子保存の要件や取引先への提出条件などは事前に確認しておきましょう。
STEP4:運用・改善の担当者を決める
導入後の問い合わせ先と、改善要望を受け付ける窓口を決めます。
例えば、現場責任者が要望を集め、システム担当者が対応を判断し、必要に応じて外部の専門会社へ改修を依頼する方法があります。
誰が問題を受け付け、誰が変更を承認するのか明確にすることが重要です。
STEP5:導入後も継続的に効果を確認する
入力完了率、作業時間、記録ミスなどを定期的に確認します。
導入後1か月、3か月といった節目に改善状況を振り返り、必要に応じて運用方法を変更しましょう。
これらの期間はあくまで運用例であり、システムの規模や業務内容に合わせて調整します。
現場の負担を減らすには、ツールの選び方も重要
紙の製造日報や設備点検表を電子化する方法として、電子帳票システムを活用する選択肢があります。
例えば、i-Reporterは、紙やExcelで使用してきた帳票のレイアウトを活かしながら、タブレットなどで記録できるようにする製品です。
帳票の入力補助や記録データの活用など、現場のデジタル化に役立つ機能が用意されています。
ラック・インターナショナル株式会社では、i-Reporterの帳票作成、導入支援、現場教育、運用サポートなどを提供しています。
ただし、紙の帳票をそのまま電子化するだけで、必ず業務改善につながるわけではありません。
入力項目や承認方法、集計方法まで見直すことが重要です。
まとめ|システムを使わせる前に、仕事の進め方を見直そう
DXが現場に定着しない原因は、従業員の意識やITリテラシーだけではありません。
今回紹介した重要なポイントは、次の3つです。
- システムによって現場の仕事が増えていないか
- 現場の業務に合ったシステムになっているか
- 導入後に改善を続けられる体制があるか
特に製造業では、現場での入力負担を減らすことと、収集したデータを業務改善に役立てることの両立が重要です。
もし自社で使われていないシステムがあるなら、まず現場担当者の作業を確認してみてください。
システムを使わせる方法を考える前に、現場が使いやすい仕組みになっているかを確認する。
そこから、DXの定着に向けた改善が始まります。

