「DXを進めたいけれど、社内に詳しい人がいない」
「情報システム担当者は、普段の問い合わせ対応だけで手いっぱい」
「外部の会社にシステムを作ってもらっても、その後は誰が管理するのだろう?」
中小企業では、このような問題がDXの障壁になることがあります。
DXを推進するには専門的な知識が必要な場面もありますが、すべての企業が高度なIT技術者を自社で採用する必要があるわけではありません。
むしろ、最初に考えたいのは「どんな人材を採用するか」だけでなく、社内で誰が何を決め、どこまでを外部に任せるのかという役割分担です。
今回は、2026年の公的調査をもとにDX人材不足の実態を確認しながら、専任担当者を置くことが難しい中小企業でも実践できるDX推進体制について解説します。
中小企業のDX推進を妨げる「人材不足」の実態
2026年2月6日に公表された中小企業基盤整備機構の調査では、全国の中小企業等1,000社にDX推進上の課題を尋ねています。
主な回答は次のとおりでした。

この結果から、IT人材とDX推進人材の不足が、多くの中小企業にとって課題になっていることがわかります。
さらに、2026年7月にIPA(情報処理推進機構)が公表した「DX動向2026」でも、DXを推進する人材の不足や育成・確保が分析対象になっています。
参考:
「IT人材がいない」と「DXを進める人がいない」は同じではない
まず知っておきたいのは、ITの技術に詳しい人と、DXを推進する人は必ずしも同じではないということです。
例えば、次のように役割が異なります。
IT技術者に求められる役割の例
- システムの設定や開発
- ネットワークや端末の管理
- セキュリティ対策
- システム障害への対応
- データ連携の構築
DX推進担当者に求められる役割の例
- 現場の課題を整理する
- 改善する業務を選ぶ
- 関係部署と調整する
- 導入効果を確認する
- 新しい仕事の進め方を定着させる
もちろん、両方の役割を担える人もいます。
しかし、プログラミングが得意だからといって、必ずしも業務改善の責任者に適しているとは限りません。
反対に、プログラミングができなくても、業務を深く理解し、関係者を調整できる人がDX推進で重要な役割を果たすことがあります。
DX担当 ちゃま男先輩!DX担当者って、プログラミングができないと務まらないんですか?
ちゃま男の先輩そんなことはないよ。例えば、工場の生産管理を長年担当している人なら、現場の仕事や問題点をよく理解しているよね。その知識はDXを進めるうえで大きな強みになるんだ。
DX担当 ちゃま男つまり、システムを作る技術と、何を改善するか考える力は別なんですね!
ちゃま男の先輩そのとおり。必要な技術は外部の専門家に協力してもらうこともできる。でも、どんな会社にしたいのか、何を改善すべきかという判断まで、全部外部任せにするのは難しいんだよ。
DX人材不足で起きやすい3つの問題
① パソコンに詳しい社員へ仕事が集中する
中小企業では、ITに詳しい社員が本来の業務と兼任でシステム管理を担当することがあります。
例えば、総務担当者が社内のパソコン設定や問い合わせ対応も担当しているケースです。
そこへ新たにDX推進業務まで加わると、日常業務だけで手いっぱいになってしまう可能性があります。
また、その担当者が退職・異動すると、システムの設定や運用方法がわからなくなるリスクもあります。
これを「属人化」と呼びます。
属人化とは、特定の人しか仕事の進め方を知らず、その人がいなくなると業務が滞る状態です。
DXを進める際には、担当者の能力だけに依存しない仕組みづくりが重要です。
② 外部に丸投げして、社内に知識が残らない
システム開発や導入を外部へ委託すること自体は、合理的な選択肢です。
ただし、外部の会社にすべてを任せてしまうと、次のような問題が発生することがあります。
- なぜそのシステム構成になったのかわからない
- 業務ルールを変更したときに対応できない
- 軽微な修正にも外部への依頼が必要になる
- 担当会社を変更したくても引き継ぎが難しい
- 自社で運用状況を判断できない
もちろん、専門的な保守を外部に任せることは問題ありません。
重要なのは、システムの目的、業務上のルール、利用者、管理権限、契約内容など、自社が把握すべき情報を残しておくことです。
③ DXの担当者はいるが、決定する権限がない
DX担当者を任命しても、部署間の調整や予算の判断ができなければ、取り組みは進みにくくなります。
例えば、製造部門と営業部門で受注情報の管理方法を統一したい場合です。
両部門の仕事の進め方が異なれば、どちらかの業務ルールを変更する必要があるかもしれません。
担当者に調整を任せるだけでは、結論が出ないこともあります。
こうした場面では、経営者や部門責任者が意思決定に関与する必要があります。
DX推進担当者を決めるだけではなく、その担当者がどこまで判断できるかを決めることも重要です。
DXを進めるために、社内で最低限必要な3つの役割
専任のDX部署を作ることが難しい場合でも、次の3つの役割を明確にすることをおすすめします。
| 役割 | 主な仕事 | 担当者の例 |
|---|---|---|
| 経営責任者 | 目的・予算・優先順位の決定 | 社長・役員 |
| 業務責任者 | 現場課題の整理・運用判断 | 工場長・部門長 |
| システム運用責任者 | 利用者管理・問い合わせ・改善管理 | IT担当者・兼任社員 |
小規模な企業では、1人が複数の役割を兼ねる場合もあります。
その場合も、何を誰が判断するのかは明確にしておきましょう。
なお、これは中小企業向けに整理した実務上の役割例であり、法令などによって定められた必須の組織構成ではありません。
経営者が担うべき仕事
経営者は、すべてのIT技術を理解する必要はありません。
しかし、改善すべき経営課題を選び、必要な予算を判断し、部門間の調整に関与する必要があります。
現場責任者が担うべき仕事
現場責任者は、実際の作業手順や問題点を把握し、システム導入後の運用方法を検討します。
特に製造業では、例外処理や品質管理上のルールを確認することが重要です。
システム運用責任者が担うべき仕事
システム運用責任者は、誰がどのシステムを利用しているのかを把握し、問い合わせや変更要望を整理します。
専門的な技術対応は外部に任せる場合でも、社内の窓口を明確にしておく必要があります。
外部委託する仕事と、社内に残す仕事を分けよう
DX人材が不足している企業では、外部専門家やIT支援会社を活用する方法があります。
ただし、すべての業務を外部へ任せるのが最適とは限りません。
例えば、次のように分けることが考えられます。
| 業務 | 推奨する担当 |
|---|---|
| DXの目的・投資判断 | 社内の経営者 |
| 業務ルールの決定 | 社内の業務責任者 |
| システム設計・構築 | 社内または外部専門家 |
| 技術的な障害対応 | 社内IT担当者または外部専門家 |
| 日常的な問い合わせ対応 | 社内・外部の分担を設定 |
| アカウント・権限の管理 | 社内が責任を持ち、作業委託は可能 |
| 改善要望の優先順位決定 | 社内の業務責任者 |
| システム改修・技術的な保守 | 社内または外部専門家 |
外部委託の際には、作業範囲、対応時間、費用、情報セキュリティ、データの取り扱い、契約終了時の引き継ぎなどを確認しましょう。
特に、管理者アカウントやシステムの設定情報を外部委託先だけが把握している状態は避けることが重要です。
DX担当 ちゃま男でも先輩、外部の専門家にお願いすると、結局その会社がいないと何もできなくなりませんか?
ちゃま男の先輩そうなるリスクはあるね。だから、運用ルールや管理情報は社内でも把握しておく必要があるんだ。一方で、すべての技術を社内で習得する必要もないよ。
DX担当 ちゃま男つまり、全部内製化するか、全部外注するかの二択じゃないんですね!
ちゃま男の先輩そうだよ。社内で責任を持つ部分と、外部の力を借りる部分を整理することが大切なんだ。
DX人材を育てるなら、何を学んでもらうべきか?
DX担当者の育成では、最初から高度なプログラミング技術を身につけてもらう必要はありません。
まずは、次のような知識や能力が役立ちます。
- 自社の業務手順や課題を整理する力
- 業務データの種類と意味を理解する力
- システムを使う目的を説明する力
- 現場の要望を整理し、優先順位をつける力
- 情報セキュリティやアクセス権限の基本知識
- 導入効果を数値で確認する力
2026年に公開されたIPAの「デジタルスキル標準 ver.2.0」でも、DXに関する基礎知識を対象とした「DXリテラシー標準」と、DXを推進する役割に必要なスキルを示す「DX推進スキル標準」が整理されています。
担当者の育成方針を考える際には、こうした公的な資料も参考になります。
また、担当者を研修へ参加させるだけでなく、実際の業務改善に関わってもらうことも重要です。
例えば、現場の点検記録を電子化する取り組みで、業務の整理から運用開始後の改善まで担当してもらえば、実務経験を積む機会になります。
中小企業は何をすべきか?90日間のDX推進プラン
専任担当者がいない企業でも、最初の90日間で小さな改善に取り組むことは可能です。
以下は、中小企業向けの実践例です。90日という期間は推奨モデルであり、業務の規模や複雑さに応じて調整してください。
STEP1:最初の2週間で推進体制を決める【最優先】
最初に、経営責任者、業務責任者、システム運用責任者を決めます。
各担当者が何を判断するのか、どの程度の時間をDX活動に充てられるのかも確認します。
兼任の場合は、通常業務に加えて無制限に仕事を増やさないよう注意が必要です。
STEP2:3〜4週目で改善対象を選ぶ
現場の課題を洗い出し、最初に改善する業務を1つ選びます。
例えば、設備点検記録の電子化、製造日報の集計、在庫情報の共有などです。
まずは、関係者が少なく、効果を確認しやすい業務から着手すると進めやすくなります。
STEP3:2か月目で試験運用を始める
改善対象が決まったら、必要なツールや外部支援を検討します。
既存のシステムで対応できるのであれば、新たに開発する必要はありません。
試験運用では、現場担当者に実際の業務で使用してもらい、問題点を確認します。
なお、機密情報や個人情報を利用する場合は、導入前に適切な権限設定やセキュリティ確認が必要です。
STEP4:3か月目で運用方法を整える
試験運用で見つかった問題を改善します。
同時に、次のような運用ルールを整理します。
- 利用者の追加・削除方法
- 問い合わせ先
- 設定変更の承認方法
- バックアップや障害時の対応
- 担当者の異動・退職時の引き継ぎ方法
難しい技術マニュアルを最初から大量に作る必要はありません。
まずは、日常的に必要なルールを文書化することから始めます。
STEP5:90日目に効果と次の取り組みを判断する
最初に決めた改善目標について、成果を確認します。
例えば、月間の集計時間、入力ミスの件数、記録の提出率などです。
効果が確認できれば、別の部署や業務への展開を検討します。
一方、期待した成果が得られなかった場合は、原因を整理して運用を見直します。
必ずしも90日以内に本格導入まで完了させる必要はありません。
90日後に、次に何をすべきか判断できる状態を目指すことが重要です。
運用まで考えたDX支援を活用するという選択肢
DX人材が不足している企業では、システムの導入支援だけでなく、運用開始後のサポートまで活用できる外部パートナーを選ぶ方法があります。
例えば、製造業の現場帳票を電子化する場合、帳票の設計・作成だけでなく、現場教育、利用開始後の問い合わせ対応、帳票の変更などが必要になることがあります。
ラック・インターナショナル株式会社では、i-Reporterを活用した現場帳票の電子化について、帳票作成から導入、現場教育、運用サポートまで支援しています。
外部の支援会社を活用する際には、初期導入費用だけでなく、保守・運用の対応範囲や契約条件も確認しましょう。
まとめ|DXに必要なのは、万能なIT担当者を1人採用することだけではない
DX人材不足は、多くの中小企業が抱える課題です。
しかし、DXを進める方法は、高度なIT人材を採用することだけではありません。
重要なのは、次の5点です。
- DXの目的と責任者を明確にする
- 業務を理解している社員を推進に参加させる
- 社内で判断すべきことと、外部委託できることを分ける
- 運用ルールを整備して属人化を防ぐ
- 小さな改善を通じて、社内に知識と経験を蓄積する
最初から完璧な組織を作る必要はありません。
まずは、経営者と現場責任者が話し合い、「最初に改善したい業務」と「その取り組みの責任者」を決めてみてください。
DX人材がいないから始められないのではなく、どの役割を誰が担うのかを整理することから始める。
それが、専任担当者を置くことが難しい中小企業にとって、現実的な第一歩になります。

